画家・鈴木掌がルワンダの子どもたちに絵を教え、全作品を買い取り、世界に届けるプロジェクト。子どもたちの創造性を信じ、その価値を認め、彼らが自分の人生を切り開く自信と希望を手にする場をつくる活動です。この体験は、将来どんな道を選んでも、彼らの中に残り続ける力になります。
2019年、ルワンダ。画家として再びこの地を踏んだ鈴木掌は、青年海外協力隊時代にお世話になった方から「子どもたちに絵を教えてみないか」と声をかけられ、アートワークショップを開いた。
そこに、一人の少年がいた。
デイビット、16歳。2歳の頃から重い腎臓病を患い、14年間、体に管を通したまま生きてきた。病気のため体は小さく、見た目は10歳にも満たないほど。学校ではいじめられ、家族にさえ一緒に眠ることを拒まれ、おばあさんの家でひっそりと暮らしていた少年だった。
そんな彼が、初めて絵筆を握った。
その絵には、言葉にできない光があった。独特の色彩で描かれた力強い顔。鈴木は画家としての眼で、迷わずその絵を買い取った。同情ではなく、純粋に、いい絵だったから。一人のアーティストとして、価値があると思ったから。
描き終えたデイビットは、「DAVID」と自分の名前を丁寧に書き入れ、誇らしげに絵を掲げて、微笑んだ。まるで仏様のような、幸せに満ちた表情。おそらく彼の人生で初めて、自分の価値を誰かに認めてもらえた瞬間だった。
「彼の絵にもっと高い価値をつけよう。そして彼自身の力で治療費を稼げるようにしよう」——鈴木は動き始めた。
しかし、数ヶ月後。デイビットは16歳という若さで、帰らぬ人となった。
間に合わなかった。
あの日の悔しさが、鈴木にひとつの誓いを立てさせた。「売れたら支援する」ではなく——
デイビットが命をかけて教えてくれたこと——誰かに自分の創造性を信じてもらえた時、人は変わる。自分にも世界に差し出せるものがあると気づいた時、人は希望を持てる。
デイビットとの出会いと別れが、heARTに使命を与えた。
ワークショップでは、まず鈴木掌が目の前で描いてみせる。それを見た子どもたちが、各々自分の作品に取り掛かる。色も構図も、心の赴くままに。鈴木は教えない。見守る。その自由の中で、「自分には何ができるか」を自分で見つけていく。
一枚の作品が買い取られることで、家族が約1ヶ月暮らせる資金になることもある。
悔しい思いをする子もいる。でもその悔しさが、「次はもっと良い作品を」という向上心に変わる。挑戦する力、向き合う力、社会で生きていく強さ。ここは、それを身につける場所。
ルワンダでは約30年前、約100日間のうちに、推定80万〜100万人が虐殺されるという悲しい歴史がある。昨日まで隣にいた友人が、今日は殺しにやってくる——そういう世界だった。今の40代の多くが、目の前で親や兄弟を失っている。その世代が親になり、子どもを育てている。
この国全体が大きなトラウマを抱えていると言っても過言ではない。力強く生きる人々がそこにいるけれど、それでも、人を信じることは決して当たり前のことではない。
そんな国で、7年間離れずに通い続け、子どもたちとの信頼関係を築いてきた。誠実であること。そして自分もこの子たちから学ばせてもらっているという感謝を忘れないこと。その積み重ねの上に、heARTは存在している。
最初に出会ったときは小さな子どもだった子が、いまは自分の絵で学校に通えるようになったり、家族の生活を支えられるようになったりしている。一回限りの善意ではなく、その子の成長を、何年もかけて見守り、応援していく。それが私たちの選んだ関わり方。
あの日、デイビットが見せた誇らしげな笑顔。初めて認められた時の、幸せに満ちた表情。その笑顔が、今、他の子どもたちにも広がっている。
自分の作品が購入される。その経験は、子どもたちの心に確かな変化をもたらしている。自分の創造したものに、価値がある。自分には、世界に差し出せる「何か」がある。多くの子どもにとって、それは初めての成功体験になる。
そして同時に、子どもたちの作品を手にした人々にも、変化が生まれている。
忘れていた感覚、手放してしまった自由さ、理屈では説明できないけれど確かにそこにある力。ルワンダの子どもたちの絵の中に、多くの人がそれを見つけている。
誰もが誰かから受け取り、誰かに与えている。認められる喜び。誇りを持てる瞬間。与え、与えられる循環。それは、子どもたちの人生にも、絵を手にした人の人生にも、静かに届いている。
絵を手にした人が、描いた子に会いたくなる。ルワンダを訪れる。滞在する。人が来れば、泊まる場所が必要になる。食事をする場所、移動の手段、案内する人が必要になる。子どもたちの作品を展示するアトリエが生まれ、その先に美術館が生まれる。
そのすべてが、この街の誰かの仕事になり、循環が始まる。
一枚の絵をきっかけに、知らなかった国が、自分の人生の地図に書き加えられていく。テレビの中の遠い国が、会いたい人のいる場所に変わる。
子どもたちと同じ空間で、同じ空気を吸い、一緒に絵を描き、一緒に笑った人は——もうその子のことを「遠い国の、知らない誰か」だとは思えない。一人の友達として、その顔と名前を覚えて帰る。
世界平和は、大きな宣言から生まれるのではなく、こうした一人ひとりの友情の積み重ねの先に、静かに立ち上がってくるものだと、私たちは信じています。
1986年、茨城県つくばみらい市出身。即身仏の家系に生まれる。ファッションの専門学校で服飾を学んだ後、母校で助手教員を務める。
2011年、青年海外協力隊員としてアフリカ・ルワンダへ。外務省日本NGO連携無償資金協力事業を経て、2015年までの5年間でシングルマザーを中心とした200人以上の若者に洋裁技術を指導し、経済的自立を支援。帰国後の2016年より本格的に絵画制作を開始。蛍光色を駆使した躍動感あふれる作品や、ルワンダ時代に絵の具がなくなり始めた「珈琲画」など、常識にとらわれない表現手法で注目を集める。
2019年、再びルワンダの地を踏み、「heARTプロジェクト」を始動。パフォーマンス活動も精力的に展開。和太鼓奏者とのユニット「燃え出ヅル」では、ライブペインティングと和太鼓を融合させ、魂に直接響くリズムの中で一つの生命を描き上げる。自身のブランド「アトミックジャングル」でも絵画・音楽・ダンスを融合した革新的パフォーマンスを行う。
作品は日本国外務省アフリカ部長室、駐日スイス大使公邸、駐日コートジボワール大使館、インドのAsian Confluence、ナーランダ大学などに収蔵。NHK「国際報道2020」、朝日新聞社「telling,」などのメディアでも活動が紹介されている。
ホテル開発、国の重要文化財を含む地域創生、旅の創生など、文化と地域をつなぐプロジェクトマネージャーを経て、2021年からheARTに参画。
2025年には、鈴木とともに、笹川平和財団とインド・ナーランダ大学が主催する Cross-Asian Dialogue on Rural Development に登壇し、アジアにおける地方創生の可能性について、アートを通じた価値創造の視点から発信した。
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